本日は書籍(小説)をご紹介します。
闘争領域の拡大/ミシェル・ウエルベック
どんなお話ですか?
要約しますと、30歳のシステムエンジニア(主人公)とモテない同僚が出張に行き、出張中の出来事を綴った物語です。
どこにでもありそうな物語?
そうでもないですよ。文学作品でシステムエンジニアが主人公という設定自体あまりなく、物語も出張に行って帰ってきてお終い、ハッピーエンドというわけではなく、フランスの地でモテない同僚との出張中に様々な出来事が起きてゆきます。
それからこの作品は1990年末代に書かれた小説になりますが、しかしながら現在(2020年)の日本においても通じる物語となっています。
通じるって?
社会のなかで対人との問題は、常につきまとうと思います。SNSでの言葉の誤解・無言の遠慮が生まれるのは、それはまたスマホが普及し、誰でも簡単にインターネットが使用できる背景が一理あるかと思います。
デスクワークの仕事では今やチャットツールを使用する企業が増え、相手が隣席にいるにも関わらず、チャットで会話する、というのは当たり前になりつつあります。
ともあれチャットの速度は会話の核心をぼかしてゆく、超音波加湿器の蒸気のように消え去ってゆく。
「それは“イケナイ”こと」
と警鐘を鳴らしているのではなく、自由のなかで対人の関わり方が多様になっている現代にこそ、対人との会話・感受性が大切であると本書はうたっていると感じました。
なるほど。
それから本書には、かつて園児や学生の時分に社会の評価を気にせず、自分がやりたいことを一生懸命に取り組んでいた情熱や、純粋な気持ちで過ごしてた日々を、強く想起させる力があると思います。
というのも私自身が想起したひとりであり、記憶から消えていたはずの出来事が鮮明に蘇りました。
小学生のとき青虫の成長過程を楽しみながら観察したことや、真夏の日曜日に汗まみれになりながらサッカーボールを追いかけたり蹴ったりしていたことが鮮明に想起させられ、そして、そのときにはいつも仲がよい友人(他者)と2人組で過ごしていました。その友人とも歳をとって卒業や就職によって連絡が疎遠になり、人生の登場人物ではなくなってゆく。異なる人生を歩んでゆく。
そうなりながらもどこかで繋がっている。
そのようなことを物語の主人公と同僚から感じました。
つまり、本書は、諍いがつづく経済社会のなかで、“賢明に生きる”人々の内面や生活を描いております。
なんか難しそう!物語の結末は?
物語の結末はネタバレになるので言えませんが、物語は複雑ではなく、また本書の日本語訳が素晴らしく、普段活字を読まない方でも読みやすいと思います。
翻訳家の中村佳子さんのお仕事が随所に煌びやかに光っています。
なーるほど。アラサー(30歳前後)ではないのですが、読んでも面白いのかな?
面白いと思います。10代から暗い青春や鬱屈した日々を過ごしている方や、日本の音楽でいうところの銀杏BOYZやイノマーさんの歌に助けられた方は、面白く読めるかと思います。
もちろん30歳前後でそれらの音楽とは無縁でありながらも、常に問題意識と向き合っている方も面白いと思います。
また、本書は世界各国で翻訳されております。
紡がれる言葉。生命に多様性があるように、文学にも多様性があります。
こんにちの社会はあたふたとしておりますが、
どうか本書が鬱屈を抱えながらも賢明に生きる方に読まれますように。
本日もご購読ありがとうございます。
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